フィリピン・マニラの中心部にある大学で、一風変わった卒業式が開かれた。
卒業生は、ネコ?!
卒業式の参列者は皆、興奮気味に舞台を見つめていた。
しかし、舞台にあがったそのフワフワな卒業生は、何かで気分を害したのか単なる気まぐれか、セレモニーの途中で脱走を試みて卒業式を台無しにしてしまった。
そう。卒業生は、この大学で愛されたネコのアーチャーだ。

大学生に愛された横暴なネコ・キング
アーチャーは2013年生まれ。”アーチャー” として大学で愛される前は、大学キャンパス内に住むネコたちを束ねる横暴なネコ・キングだった。
転機が訪れたのは、2014年。キャンパスの北門の警備を担当していたジェニーさんとの出会いだった。ジェニーさんとアーチャーは一緒に北門の警備をしているうちに仲良くなり、アーチャーは次第にヒトに心を許していったのだ。

いつもジェニーさんと一緒に北門の警備にあたっていたアーチャー。毎朝大学生に挨拶をし、撫でられ、「通行料」としてオヤツをもらうことが日課となった。
しかし元・キングの愛称の横暴ぶりは変わらない。ナデナデした大学生がオヤツをもっていないとわかると、思わず鋭いツメが出てしまうのであった。

ついには、大学の教職員さんたちが「キャンパス・キャットと仲良くなるには」、つまり「いかにアーチャーを怒らせずに可愛がるか」について話し合われるほどだった。
大学を卒業し新たな家族のもとへ
たくさんの大学生に愛されたネコのアーチャーも、大学を “卒業” する時が来た。
理由は、アーチャーの健康問題。健康診断の結果、肝臓と腎臓に良くない結果が見つかった。これからは食事の内容を見直す必要があるアーチャーに、いつも大学生からオヤツをもらってしまう環境は望ましくない。
アーチャーの家族に立候補したのは、もちろん、大学で最初に仲良くなったジェニーさん。

みんなが大好きなアーチャー。でも大好きだからこそ、見送らなければいけない時がある。
アーチャーのために開かれた卒業式では、卒業生であるアーチャー本人がセレモニーをぶち壊しにしてしまったが、みんながその別れを惜しみ、卒業を祝福した。

アーチャーが大学に通った証として、学生証と卒業証書が発行された。

キャンパスでネコと共存するということ
ネコのアーチャーは、大学に住むキャンパス・キャットの代表であり、キャンパスの “ヒトとネコの共存” の象徴的存在だった。
大学ではキャンパス・キャットにご飯と避妊手術と適切な医療を与え、フレンドリーなネコには家族を探す取り組みが開始された。

その活動費は、主に寄付とアーチャーの写真や記念品の売上金からまかなわれている。

今アーチャーは、昔のキャンパス・ライフを懐かしみながら、家族になったジェニーさんのお家でおだかやに過ごしている。キャンパスに住む後輩ネコが、幸せに、おだやかに、そして家族が見つかることを願いながら。
